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富士ニュース『明窓浄机』(2018 -7)掲載  
妙善寺住職 長島宗深

電車を乗り継ぎ、遠方から四時間かけて、妙善寺を訪ねてくださった方があります。私くらいの年代の女性でした。それも幼児を連れて。目的は、『にじ色ポスト』に手紙を投函するためでした。
『にじ色ポスト』というのは、妙善寺で二年前に始めた布教活動のひとつです。寺庭さんがグリーフケアの勉強を続ける中で発案した試みで、亡くなった人に宛てて書いた手紙を受け取るポストです。

 まずは、玄関先で、お話を伺いました。
 三年前に、当時まだ二〇代だった娘さんを亡くされたそうです。不治の病に苦しむ娘さんに、何もしてあげることができなかった後悔に暮らす中、テレビ番組で偶然このポストのことを知り、伝えきれなかった思いの丈(たけ)をしたためて、もうすでに三通も投函してくださったのだと言います。

 四通目を書き終えたとき、「そうだ、一度、実際にポストに投函させていただこう。孫を新幹線にも乗せてあげたいし」と思い立ち、寺に連絡もせずに来てしまったのだそうです。
 ひととおり事情を伺った後、本堂にご案内し、自らの手で投函していただきました。その方は本堂の中や、外の境内をしみじみと見回して、
「…いいところですね、ここは。このポストから、あの娘の所に手紙が届くんですね」
と、納得したようにつぶやいたのが印象的でした。
 ポストに届く手紙は開封しません。たとえ何通届いても、出された方の思いを私が知ることはありません。でもこうして直にお目にかかることができれば、少しは事情を聞かせていただくこともできるのです。

 帰り際、「ひとつ教えていただいてよろしいでしょうか?」と、改まった面持ちで尋ねられました。「なんでしょうか?私にお答えできることであれば」と私。
「実は、娘が亡くなった後のお盆で、迎え火を焚きました。うちは数軒続きの家なのですが、外で新盆の火を焚いて娘を迎えようとしていたのです。そうしたら近所の方が、『煙が出て迷惑だからら火を焚くな!』と怒ってきたのです。
 今年もお盆が近づいています。私はどうしたらいいんでしょう? 迎え火を焚かなかったら、娘は迷ってしまうんじゃないでしょうか。それを思うと心配で…」
 娘さんのご供養を真剣にお考えのその姿に、胸が熱くなりました。
「それは、つらかったですね。今年も、やがてお盆ですものね。残念ながら今のご時世では、野外で火を焚くことを制限する地域もあると聞きます。
 でも、大丈夫ですよ!無理に麻(お)幹(がら)で火を焚かなくてもいいです。蝋燭一本でも…それも無理なら、懐中電灯でもいいじゃないですか。ここだよ〜。ここに帰っておいで〜って、迎えの明かりで導いてあげればいいんです」

 そう聞いた途端、ぱっと表情が明るくなったその方は、「それでいいんですね! そうですか…ありがとうございました。ありがとうございました。ここまで訪ねた甲斐がありました」そう何度も頭を下げて去って行かれたのでした。
 私はその親心が切なくて切なくて、後ろ姿に手を合わせるばかりでした。そして、娘さんへのご供養の思いの強さに、心を揺さぶられたのです。
 さらには、伝統行事に託される供養の思い、日本人の亡き人への思いの強さを真っ正面から見せていただいて、改めて僧侶としての責任を痛感したのです。
 時代が変わり、供養の形は変わって行かざるを得ないことが、あるかもしれない、でも供養の心、願いは大切に見守らせていただきたいと思うのです。
  *  *
[お願い]
虹いろポストは、郵便を利用して妙善寺宛てに手紙を出していただくシステムです。ポストは本堂内に設置してあるため、随時、直接投函できるものではありません。
 もし御自身で投函したい場合は、お寺に連絡をいただければありがたいです

[手紙の宛先]
〒417-0852
富士市原田1344
妙善寺 虹いろポスト宛

どなたでも、どうぞ





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