「富士ニュース」平成22年2月16日(火)掲載

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Meiso Jouki

知り合いの和尚さんの日課は、早朝のジョギングです。毎日十数キロ、京都の町をゆっくり走るのですが、そのいちばんの楽しみが日の出だそうです。

「いまの季節は嵯峨野のあたりで御来光なんだけど、今日はちょうど渡月橋の上でね…いやぁきれいだった。いつもみたいに食べたよ、お日さま」
「ん? 太陽を?」
「そうだよ(笑)、言わなかったっけ。ボクはね、その場で立ち止まって『あーぐっ。あーぐっ』って、ゆっくり三回、お日さまを食べちゃうんだよ」
 口を大きく開けて、うれしそうにやって見せてくれる無邪気な彼を見て、こちらも楽しくなりました。

 それ以来、私も折を見て真似をするようにしています。冷気と一緒にお日さまの明るさと温かさが体のすみずみにまで行き渡るようで、幸せな気持ちになります。太陽とひとつになったような気宇壮大な心持ちになります。
 そのあまりのすがすがしさに、自然に合掌してお日さまを拝むことになるのですが、そのとき浮かぶのが、以前学んだこのフレーズです。

「右ほとけ 左凡夫と合わす手の 中にゆかしき南無のひと声。大宇宙とひとつになって…本日ただ今、誕生!」
 仏教では右手は神聖な仏さまの手、左手は悩み苦しみ多き私たちの手ととらえています。その両手を合わせることで、私たち凡人凡夫も仏さまの御心をいただくのです。そこを「南無」と拝むのです。
 これだけでも十分なのですが、もう少し朝を愉しむために、後半の言葉が続きます。

 合掌した手をそのまま天に向かって伸ばしてから、大きくゆったりと平泳ぎするような感じで下におろします。ちょうど両手で円を描く感じです。そのとき「大宇宙とひとつになって」とつぶやくのです。禅では大宇宙をも含んだ仏さまの世界を「一円相」という○に託すからです。
 その手の流れのままに、おへその下のあたりで指を組みます。ここは「気海丹田」といって、元気・やる気・勇気…の「気」が集まる大切な場所です。活力のエネルギーの源です。禅では心をここに据えるようにイメージして呼吸をします。
 こうして指を組む姿を「忍辱合掌」と呼ぶことがあります。耐え偲んでこらえる合掌です。ここでぐっと指に力を入れ(この世は苦しみの世界だと言うけれど、もしつらいことがあっても、一日耐え抜こう)と自分に念じるのです。実はこの指の組み方はお腹の中の赤ちゃんの姿に見られるといいます。

 そして最後の誕生の言葉です。昨日起きた嫌なこと、つらいことは、ひとまずリセットしよう。人を憎んだり恨んだりした心もひとまずリセットしよう。ついでに嬉しかったこと楽しかったことも一旦リセットしてしまおう。毎日顔を洗うように、(新しい、今日生まれたての私を、これから始めるぞ)という気持ちを込め「本日ただ今、誕生!」と、両拳を天に突き上げるのです。
 

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明窓浄机

本日ただ今、誕生〜!

文・絵 長島宗深