「富士ニュース」平成23年4月11日(火)掲載

153



Meiso Jouki

 福島原発の事故直後のことです。かつてその設計に携わった関係で、今回の事故に強く関心を持たれている方とお話しする機会がありました。

「本当に大変なことになりました…和尚さん、日本はこのままの考え方でいいと思いますか? ドイツでは原発反対の気運が高まっていますが、そこで反対する人たちの声の中に、『自分たちは、限られた電力の中で極力間に合うよう生活するから、その代わり国内の原発を廃止してくれ』という発想があるそうです。それでも現実に足りない分は外国から輸入しているらしいですが、それにしても考え方に『節度』がある。日本は違います。経済の発展と快適な生活をどこまでも求めて、節度なく電気を使おうとする。我慢をしてでも、今の生活を変えてでも安全な方法を選ぶという選択は、もうありえないんでしょうか。こういうことをお坊さんがみんなに言ってくれませんか?」

ドイツの原発反対運動にも、エネルギー事情にも詳しくない私ですが、こう投げかけられた私は、以前友人から聞いた話を思い出しました。
「真冬にドイツの空港に着いて驚いたよ。タクシーに乗ろうと思ったらドライバーがいないんだ。見ると、別の車の中に何人かの運転手が集まっている。エコのために、お客さんを乗せないときはエンジンを切るんだって。でも待っていると寒いから、一か所に身を寄せ合って寒さをしのぐそうだ。徹底してるねドイツは、先進国なのにこういう選択をするなんて」
 私は、今回、一連の震災報道に接し、また、わずかながらも計画停電を体験し、こまめな節電を心がけるようになって、(私たちに本当に必要なものは何だろうか)と考えることが多くなりました。それはみなさんも同じではないでしょうか。
 快適さや便利さだけを求める心を根本から見直して、もっと大切にすべき事を真剣に守ろうとする、その勇気ある方向転換を、今、私たちは迫られているように思います。

 かつて紹介したことのある坂村真民さんの詩の一節が、その思いを後押ししてくれます。
「あとからくる者のために
苦労をするのだ
我慢をするのだ
…あとからくる者のために
山を川を海をきれいにしておくのだ
ああ後からくる者のために
みなそれぞれの力を傾けるのだ
あとからあとから続いてくるあの可愛いい者たちのために
未来を受け継ぐ者たちのために
みな夫々自分で出来る何かをしていくのだ}
(『詩国』)


何度も何度も、この詩をかみしめていると、震災の後、街頭で東北への応援メッセージを募って一生懸命呼びかけていた大学生の姿が重なります。そして、テレビ局のインタビューに答えて彼が最後にきっぱり言い放ったひと言が、心を揺さぶります。
「これからこの国を復興していくのは僕たちですから!」
 こうしてあとから続いてくる者たちのために、今、私たちは何をしなければならないか、未来にツケを回さないために、今、何を考えなければならないか。そこまでは、これまでこの時代をつくってきた私たち大人の責任です。


おはなし 目次に戻る
明窓浄机

文・絵 長島宗深

あとからくる者のために