「富士ニュース」平成31 年2月掲載

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Meiso Jouki

■ 先月、久しぶりに映画を観てきました。アニメ『妖怪ウォッチ』です。いわば子ども向けの友情物語なのですが、「大人も泣ける名作誕生」と銘打っただけあって、不覚にも何度も涙ぐんでしまった私でした。

 お話の中に、何人(何匹)もの邪悪な妖怪が次々と登場します。主人公たちは、勇気と、チームワークと、「友達になった妖怪を召(しよう)喚(かん)できる不思議な腕時計(ウォツチ)」を駆使して、行く手を阻む悪い妖怪を退治しながら、目的地に向かっていくのです。

 子どもアニメらしいなぁと、思わず微笑んでしまったのは、退治された妖怪の変貌ぶりです。戦うときの形相は、それはそれは恐ろしいのに、いざ負けると一転、かわいらしいキャラに変わります。そして「出(い)でよ○○!」と召喚されると、チームに加わって、助ける仲間になるのです。
 敵対した何人もの妖怪は、もともと邪悪なのではなく、「何者か」に一時的に魂を乗っ取られ、あやつられていただけだったのです。だから憑きが取れると、もとの素直な本性に戻ることができるということなのでしょう。

 ところで、仏教では、大(だい)般(はん)若(にや)祈祷会という仏事を行うお寺があります。参加者の平安や五穀豊穣、世界平和等を祈念してご祈祷をします。私がお招き頂くお寺はお正月に開催しますので、私も祈祷僧の一人として毎年お経を読ませていただいてきました。

 その仏事の折、正面に掲げられる掛け軸に、なんと、映画に登場するような邪悪な鬼が描かれているのです。人間のしゃれこうべのネックレスを誇らしげにかけた筋骨隆々の深沙(じんじや)大将です。あるいは、無数の夜叉(悪鬼)を従える武神・バキラ大将です。いずれも、もともとは悪魔であったのに、仏教に出会い心を入れ替えた後は、善神となって、仏法と仏教徒を守護するようになったのです。そう映画の妖怪たちのように。


 このご祈祷のポイントは、大勢の僧侶が大声でお経を叫ぶ場面です。
「ゴーブクイッサイダイマ サイショウジョウジュ!」(降伏(ごうぶく)一(いつ)切(さい)大(だい)魔(ま) 最(さい)勝(しよう)成(じよう)就(じゆ))
…魔を除き、最もよいことを招く=除災招福ということになりましょうか。


 実はこの言葉を叫ぶとき、私がいつも念じていることがあります。
(参加者のみなさん。他人事だと思ってこのお経を聞かないでください!「魔」や災いは、みなさんの周りに原因があるばかりではないのですよ。実はみなさんの心の中にこそ、本当に恐ろしく、手強い「魔物」が住み、はびこっていることがあるのです。魔物に心を乗っ取られ、あやつられないでください!)

 お釈迦さまは、この魔物たちを「トンジンチ」と名付け、総称して「三(さん)毒(どく)」と教えられました。これまでにも何度か書かせていただいた「貪(とん)」(貪欲)、「瞋(しん)」(怒り)「癡(ち)」(邪見=無智)という、恐ろしい毒たちです。仏教は、生きている間はなかなか御しきれないこの三毒とのつきあい方を、お経という形で示してくれているのです。
 そうしてみると、祈祷僧が叫ぶお経の言葉は、みなさんの中の善い心を召喚する、不思議な「ウォッチ」なのかもしれません。


文・絵 長島宗深

妖怪ウォッチ

明窓浄机

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