「富士ニュース」平成17年12月19日(月)掲載

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Meiso Jouki

 忘れがたい光景があります。
 よく晴れた歳晩のある日、寺を訪れていたご家族の姿が目に止まりました。若いご夫婦が、二人のお子さんと一緒にお墓掃除をしていたのです。
 下の娘さんはまだ小学一年生くらいでしょうか、お父さんと同じように箒を手に、まわりの通路から階段から、ちょこちょこと一生懸命に駆け回っています。

 お姉ちゃんはお母さんの手元となって、見よう見まねで花立ての水替えです。
 南斜面の陽だまりの中、四人家族が一つになって、穏やかに暮れのお墓掃除をしている光景でした。
「ねえ、お母さん、どうしてここをきれいにするの?」
「ここはね、ご先祖さまのお家だからだよ」
「ごせんぞさま?」
「うん。おじいちゃんとおばあちゃんのことだよ。二人とも、あなたが生まれる前からここに眠っているの。あなたは知らないよね、一度も会ったことがないから。でもこの二人のご先祖さまは、お父さんにとって、とても大事な『お父さんとお母さん』なのよ。だから、お母さんにも、あななたちにも大事な人たちなの。それで、『ありがとう』ってお掃除するのよ」
「ふーん、そうかぁ…」

 子どもたちにご先祖さまの姿は見えません。でも、このお母さんの話で、子どもたちはおそらく、「目には見えないけれど何だか大切な人たちがいるらしい」ということを感じたに違いありません。
 前回のコラムでも、陰に隠れて見えないご恩に「おかげさま」と感謝することの大切さにふれましたが、「ご先祖さま」はまさにそのものです。

 ある先輩和尚さんからは、こんなお話をうかがいました。
 そのお寺に、若いカップルがおまいりに来て、本堂の位牌の前でご先祖さまにていねいに礼拝されていたのだそうです。と、ちょうどそこに居合わせた大変信心深いおばあさんが、若い二人に尋ねました。
「あんたら、何だえ?」「私たち、近々結婚するので報告に来たのです」
「それで、お前らには先祖さまが見えるかえ?」「……?」  
「見えんら。わしにも先祖さまは見えんが、先祖さまの方からは、お前らのことがよく見えているんだよ」…と。
 一時は百十四歳で長寿日本一となった秋野やすさんのエピソードです。

 こちらからは見えないけれど、ご先祖さまはいつも見守ってくださる。
 うれしい時は共に喜び、悲しい時はかたわらで一緒に悲しみ、悪いことをしている時はハラハラと心配し、がんばっている時はこっそり応援してくれている。私たちの幸せを心から祈りながら…。
 こんな心強い味方が、ご先祖さまなのです。
 見えないご先祖さまのご恩を信じられる人は、心豊かな人です。そして、決して自分ひとりのものではないと、己がいのちを大切にできる人です。
 お正月は元来、お盆同様に、このご先祖さまを家に迎える日でした。縁のあるお墓やお仏壇を心を込めて清め、お正月にはご先祖さまと心を通わせたいものです。

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明窓浄机

お墓掃除

文・絵 長島宗深