「富士ニュース」平成19年3月 20日(火)掲載

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Meiso Jouki

  観音祭典の夜。
 昼間のにぎわいの余韻がすっかり消えた静かな境内に、突然ギターの音色が響き渡りました。
「♪素敵な出逢いには必ず/悲しい別れが待っている/それでも僕らは求めるよ/出逢いを求め続けるよ/それは別れる悲しみよりもっと/出逢えたことがうれしいから」
 のびやかな歌声を披露してくれたのは、アマチュア学生バンド「ゆジュニア」のお二人。
 ミニコンサート?会場は、観音堂の中でした。
※   ※

 三月六日に開かれた大祭は、例年より十日も早く満開になった彼岸桜と暖かい陽気に恵まれて、たくさんの方が、お参りくださいました。
 あわただしく一日が過ぎ、片づけがすんだのは、午後六時半。
 最後に一人残った観音堂で、観音さまと静かに相対するひととき。私は、(観音さま、きょうは一日、大勢の参拝の方たちに、惜しみない慈悲のまなざしを捧げてくださり、本当にありがとうございました)と、改めてお礼の礼拝をさせていただいていました。
と、その時です。
 寺の住まいの方から、ギターの弦の音に乗って、元気な歌声が聞こえてきたのです。(そうそう、きょうは子どもの友人が集まって、お参りかたがた、ライブの練習をしていたんだっけ)
 その彼らの歌声を遠くで聞いているうちに、ふと、思いつきました。
(そうだ。観音さまにも聞いていただこう。あの歌なら、きっと喜んでくださるに違いない) 
 和尚の突然の思いつきで強引に始まった『奉納ライブ』。

 ご開帳の秘仏・千手観音さまの前の特設ステージに、にわかに集まった観客は、お寺の家族わずか五人だけ。
 やや緊張気味の彼らは戸惑い気味に、
「観音さまにお尻向けちゃ、まずいですよね?」「(笑)そうだね。じゃ、観音さんを中心に『ハの字』に向かい合おうか」
 私がリクエストしたのは彼らのデビューソング『気さくへ』でした。
「♪気さくな友よ」と歌いかける冒頭の歌詞を聞く度に私は、年甲斐もなく胸が熱くなります。未来を夢み、希望を持って生きようとする明るさと強さが、世代を超えて伝わってくるからです。
 初めて訪れた家だというのに、なんら臆することなく若いエネルギーをぶつけてくる彼ら。
 今時の若者は「甘い」「頼りない」という声があちこちで聞かれる中、(この子たち、いいじゃないか! 正しい言葉、正しい主張を持ってるじゃないか! こんなオジサンにも共感できる、すばらしい言葉を持ってるじゃないか)と、すなおに感動したのでした。
 一期一会の出逢いの喜びを歌い上げる。
(若いっていいなぁ)…そんな感慨を久しぶりに思い出させてくれる歌でした。
 ゆらゆら揺れるろうそくの灯(あか)りの向こうでは、観音さまもにこやかに微笑みを浮かべ、見守るように合掌されながら、若者たちの澄んだ歌声を聴いておいででした。

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明窓浄机

奉納ライブ

文・絵 長島宗深