「富士ニュース」平成20年7月8日(火)掲載

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Meiso Jouki

梅雨に入り始めた頃のこと。窓の向こうがやけにうるさいと思って外に出てみると、カラスの子どもが地面の上で困り果ててカーカー鳴いていました。
 実は、境内のクスノキの天辺に巣作りをしていることが数日前から近所の話題になっていたのですが、子ガラスにはいささか早すぎる巣立ちだったようです。
(もしかして巣から落ちてしまったのかな?)と様子をうかがっていると、その気配を察して低い枝にぴょんと飛び乗り、少しずつ高みに枝渡りしていくのです。そして最後には、必死で地面すれすれに飛び去っていきました。間近でまみゆる幼鳥は、童謡『七つの子』の通り「♪まぁるい目をしたいい子」でした。
 その一部始終を見張っていた二羽の親ガラス。ギャーギャーと、それぞれ別々の屋根の上からすさまじい声で私を威嚇し、時には襲いかからんばかりに頭上を飛び回っては、我が子に近づく危険を排除しようと懸命でした。(和尚の大切な頭を突つかれてはたまらない!)と、早々に退散した私でしたが、子思いの親鳥たちの姿に心打たれる思いでした。

 鳥がすべてこうだとは限らないのはカモ類が有名です。
 先日のFM放送でも紹介されていましたが、オシドリの雛は、生後すぐに目が開き自力で歩いて餌をとることができるので、父親は子どもの世話をしないというのです。
 それだけではありません。水面を寄り添って泳ぐオシドリは、『おしどり夫婦』いう言葉の通り仲の良いことで有名ですが、実は一緒なのはわずかな恋の期間だけ。次の繁殖期には別のパートナーと結ばれるのだそうです。雄の平均寿命が二年なので致し方ないのですが…。
 では鳥の中で本当に夫婦仲がいいのは何かというと、体が大きく寿命が長いツルが一番だといいます。加えて、最近の研究でカラスの夫婦も注目を集めているとのこと。夫婦で羽繕いする「おしどりぶり(?)」がよく観察されるのだそうです。

 カラスといえば、その黒光りする大きな姿や、不気味な鳴き声、そしてゴミを食い散らかし、時にはお墓の線香で山火事まで起こしてしまうというのですから、さすがにバードウォッチングファンの私も、「好きな鳥」に挙げるには、はばかられます。
 でも、鳥に対する好き嫌いの印象は、考えてみれば人間の勝手な選り好み感覚に過ぎません。ちょっと見方を変えれば、外敵から我が子を懸命に守ろうとするその姿には、同じ親として共感するものがあり、また、仲むつまじい夫婦の姿にも、私たちが素直に見習うべきお手本があるようにも思えるのです。特にこの乱れた世相の中では。
そういえば、現在健闘中のサッカーワールドカップ・アジア予選に出場中の日本代表の旗印、日本サッカー協会のマークもカラスでした。太陽の使者だという三本足の「八咫烏」(ヤタガラス)の雄姿を見ていると、とても頼もしく思えてくるのですが…これも私の身勝手な印象ですね。


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明窓浄机

カラスなぜ鳴くの

文・絵 長島宗深