「富士ニュース」平成20年11月24日(火)掲載

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Meiso Jouki

  何年か前のNHK朝の連続ドラマ『芋たこなんきん』で、藤山直美さん演ずる花岡町子さんが、ふと仏壇を拭き浄める手を休め、ご主人(かもかのオッチャン)に、こんなふうに話しかけるシーンがありました。
「ねぇ…、新しいお仏壇買ってみようか、これじゃあ寂しいもの」
「えっ? …できるの?仏壇って高いよ」
 奥さんの申し出に(この人は突然何を言い出すんだろう)と当初は困惑気味だったご主人に、町子さんがきっぱり言います。
「平気よ。だって、ご先祖さまがいたおかげで、いまのあなたがあって、私があって、このままずうっと暮らして、そうして私たちもいつかご先祖さまになれたらいいな、って思わない?」
 楽しそうにこう答える奥さんの言わんとすることを察したご主人も、思わず目を輝かせて、「いいねぇ」とうなずきます。奥さんはその返事を聞いてうれしくなり、いっそう張り切ってお仏壇掃除に励んでいくというシーンでした。
 半生を共に歩んできた中年夫婦が、これからのお互いの末永〜い『未来』をご先祖さまとなった後でも共にすることをもう一度確かめ、もう一度約束し誓い合いたいという心情が見事に演じられ、ほのぼのとした思いが残りました。

 ふつう私たちは、この世とお別れをした後でおもむく世界に、そうやすやすと夢や希望をいだけないのが常でしょうのに、そんな浅はかな考えをばっさりと断ち切ってくれた名台詞でした。
 ご先祖さまと今の自分はご縁で結ばれている。それが自分の血縁であれ、また自分の大切な連れ合いの血縁であれ、つながっている。そのことを、思い起こすきっかけとなるのがお仏壇です。ご縁に気づいた以上は、感謝を込めお仏壇をきれいに磨かせていただかねばなりません。そして、その姿を家族に見せ、大切にすべきこととその方法を、子や孫に託していくのです。
 これは私の経験上強く感じることですが、現在はどんな裕福な暮らしをされていても、お仏壇を粗末にされているお宅に、未来につながる正しい「気」は感じられないものです。きっと、今の自分があるのはご先祖さまのおかげという謙虚さが見えないからでしょう。

 一方、逆に今は質素な暮らしをされていても、お仏壇に活気があるお宅には、この先の未来に続く「気」を感じることが多いものです。ご先祖さまへの限りない「感謝」と、愛すべき子孫たちに幸あれとの「願い」の込められた合掌の祈りが常に捧げられているからでしょう。お仏壇の活気は、値段の高い安いとは関係ありません。よく掃除され、常に新しいお水が供えられ、どんな花(香花)でもいいから生花が飾られ、毎日お参りされていると生まれやすいものです。もちろんお供物やお仏餉(ご飯)の心配りがあればこの上ないことです。

 お仏壇が家にない方も、ご実家に立ち寄られたときには、ご先祖さまのご恩に思いを致し、感謝を込めてお参りしていただきたいと切に感じるこのごろです。

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明窓浄机

お仏壇

文・絵 長島宗深