「富士ニュース」平成21年4月14日(火)掲載

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Meiso Jouki

 「和尚さんに、いのちのことで教えてほしいことがあります。明日友達と行ってもいいですか?」
 そう連絡のあった翌日、小学生の女の子が二人、お寺を訪ねてきました。
 少し緊張気味の彼女たちの気持ちをほぐしてから、「で、今日はどんなことが知りたいの?」と尋ねると、「死後」の事でした。いつも見ているコミック漫画に、霊とか死神とか霊媒師とかでてくるけど、本当はどうなっているのか友達同士で話題になり(それなら和尚さんに聞きに行こう)と私が選ばれたようなのです。

 かわいいノートを取り出して、意欲満々。事前に二人で予習をし、メモしてきた質問事項は…「死ぬとどうなるのか。生まれ変われるのか。その時、ネコや動物になっちゃう場合もあるのか」「前世や来世はどうなっているのか」「天国はどこにあるのか。そこはどんな生活の様子か。ひとりぼっちで寂しい所か。下界は見下ろせるのか。反対に地獄はどんなところか」…等々、どれもなかなかの難問です。
「じゃあ、まず天国と地獄の話をしよう。あなたたちは、天国ってどんな感じだと思ってるの?」
「天国はふわふわした雲の上。でもさみしいし恐い。知り合いがいないし。反対に地獄は、鬼っぽい。暴力的。悪いことした人がいて、暗くて恐い。絶対行きたくない」
「じゃあ、その地獄はどんな悪いことをした人が行くのかな?」
「連続殺人魔!」
「じゃあ、泥棒は?」
「うーん、泥棒でも…反省すればいい。反省しない泥棒は地獄」
「嘘つきは? 意地悪は? いじめは?」
「…それくらいなら地獄じゃなくてもいいかも」
「いろいろ心配なんだね。正直なところ、和尚さんもあの世に行ったことがないから、くわしい様子はわからないんだ」と断った上で、彼女たちのイメージを探りながら、仏教の世界観を伝えていきました。

 日本の仏教では、天国(天)と地獄だけではなく、修羅・人間・畜生・餓鬼を合わせた六つの世界(六道)が考えられてきました。
 私たちは、人それぞれさまざまな生き方をしますが、その生きたように次の世界が定まってくるというのです。生きている間に、怒りん坊で乱暴だったり、ケチだったり、欲張りだったり、怠け者だったり、嘘つきだったり、遊んでばっかりだったり…その生き様に応じて次の世界が決まることを「自業自得」と言います。ですからあの世は、さまざまな失敗を『反省する修行の場』と言えるでしょう。そのいちばん厳しい修行道場が地獄というわけです。

地獄で苦しみたくないのは誰だって同じです。だから生きているうちに、いいことをできるだけたくさんするように心がけ、また反対に悪いことはできるだけしないようにする。でも、もし過ちを犯してしまったら心から懺悔して、そこから善いことを一つずつ積み重ねていけばいいのです。
「あの世のことが気になるかもしれないけれど、生きている今を、どう過ごすかが、はるかに大事なことなんだよ」と、しみじみ話して二時間。
「和尚さん、なんだか私たちが思っていたこととぜ〜んぜん違ってた。失敗とかしちゃっても、あとでちゃんとがんばればいいんだね。すっごく安心した! ありがとうございました」

十分に説明できたとは思えませんでしたが、とてもすっきりした二人の顔を見て、(少しはお役に立てたのかな?)と、ほっとした私でした。 




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明窓浄机

死んだらどうなるの?

文・絵 長島宗深